▼サイケデリックス psychedelics
ギリシア語で「魂を顕現させる」という意味で、精神展開剤とも訳される
幻覚剤 hallucinogenともいう
▼多様な変性意識状態の中でなぜサイケデリックスに注目するのか?
深い意識の変容が起こる
文化的伝統に深く結びついている
(もうひとつの伝統である瞑想は人類学Aで扱う)
研究者による追体験が容易(安全性、コストと時間)
脳生理学的分析が容易
20世紀のカウンターカルチャーへの大きな影響
▼サイケデリックスの文化的背景
主に中南米の先住民社会で、サイケデリックスを含む薬草が、
シャーマンが意識を変容させ、超自然界と接触するために用いられる例:ペルー・アマゾン先住民シピボ Shipibo のアヤワスカ茶会
▼サイケデリック体験
「魂の顕現」=無意識の情報が意識に昇ってくる
通常の意識が保たれている点が夢見とは異なる「サイケデリック」な幾何学模様のヴィジョン
身体感覚の変容、自他境界の消失
過去の記憶、人生の回顧
他界的世界のヴィジョン(光の世界・闇の世界、天国的な至福・地獄的な恐怖)
超自然的存在(祖霊、精霊、神など)とのコミュニケーション
人生観・世界観の変化(生の意味の再発見など)臨死体験などと共通する要素も少なくない
▼サイケデリック体験の表現
主観的かつ言語を超えた体験であるため、文字では記述が難しく、撮影することもできない
アヤワスカ茶会の体験 →『彼岸の時間』 (pp.3-8)
サイケデリック体験を絵画で表現する試み
→伝統美術のデザイン→「シピボの美術と精霊たちの植物」「縄文文化の超自然観」
→ペルーの画家、Pablo Amaringo(『アマゾン:森の精霊にきく』(NHK))サイケデリック体験を映像で再現する試み
→"Altered States", "Blueberry, l'expérience secrète (Renegade)"
▼主なサイケデリックス
天然のサイケデリックス
狭義のサイケデリックス major psychedelics に分類されるもの
・メスカリン mescaline (中米のペヨーテ peyote やアンデスのサンペドロ San Pedro に含まれる)
・シロシン・シロシビン psilocin, psilocybin (中米のシビレタケなどに含まれる)
・DMT、ハルミン・ハルマリン harmine, harmaline (アマゾンのアヤワスカ ayahuasca・チャクルーナ chakruna に含まれる)広義のサイケデリックス minor psychedelics に分類されるもの
・THC(アジアの大麻 hemp/marijana に含まれる)
・カヴァラクトン kavalactone (南太平洋のカヴァに含まれる)人工のサイケデリックス
LSD(1960年代の西洋で対抗文化と結びつく)
MDMA(1980年代以降に流行)
→いずれも乱用され非合法化される参考資料→向精神性植物の分類表
▼サイケデリックスの作用機序
例:メキシコ先住民マサテコ Mazatec の治療儀礼とシロシン・シロシビンとセロトニン(5-HT)
→『意識変容の人類学』『脳と心(6)無意識と創造性』(NHK)主要なサイケデリックスは神経伝達物質と構造が似ている。シロシン、シロシビン、DMT、LSDなどはセロトニン(5-HT)と、メスカリンやMDMAなどはドーパミン、ノルアドレナリンと構造がよく似ている。このことから、意識状態の変容がこれらの神経伝達物質と関連する神経系を過剰に興奮させるか(アゴニスト)またはレセプターをふさぐことによって阻害するか(アンタゴニスト)によって引き起こされることが示唆される。
脳内での化学的な変化が意識状態を変化させるということは、脳という物質の働きが意識という心の働きを生み出しているか、そうとまで言い切れなくても、脳の働き→心の働き、という因果関係があることを示唆する。
2007/2550-10-18 改訂 蛭川立