いま、どのような思いを抱きながら働いていますか?
大学卒業後、さまざまな職場で働く12名のOB・OGたちに、社会人グループが半年間にわたってインタビューし、そのようすを撮影しました。
10月5日の講座「正規労働者の世界(1)~OB・OGの働き方」では、そのときのインタビュー映像を「わたしの就活」(16分)、「職場のリスク」(18分)、そして「学生へのメッセージ」(10分)の3つのパートに分けて上映し、学生たちと将来の働き方について考えました。(司会・明治大学経営学部兼任講師 石川 公彦)
「労働講座TV-2」では、上記の3つのビデオから一部を抜粋して、文章で紹介します。また、11月9日の講座「非正規労働者の世界(2)~様々な雇用形態で働く人々とユニオン運動」に、ゲストで登場した松元千枝さんが語る仕事体験については、そのときの収録映像からご覧ください。
職場のリスク〜長時間労働、出産・育児
職場のリスク〜人員整理、不安定な働き方
学生へのメッセージ
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わたしの就活
企業のアウトプットに納得
Aさん(24歳・男性)
大手不動産会社勤務
Q何社くらい受けたの?
エントリー・シートだけだと20社くらいですかね。
Q面接に行ったのは?
10社以上は受けてますね。就活が早い段階で順調にいって、4月に1社の内定が出たので、それでもうこっちが選ぶというか。
Q内定は何社もらったの?
4社です。うち2社がメーカーで、1社がいまの会社の不動産、あと1社が商社だったんですけど、最終的に商社と不動産でどっちにしようかなぁと悩んだ。感覚として、自分のキャラクターや内面的な部分と合うのはどっちかなぁと考えたときに、面接のときの感覚からも、圧倒的にいまの会社のほうが合うなぁと。
Q性格って、どういうところが合うの?
勢いで派手に物事を進めるというよりも、どちらかというと緻密にコツコツやるタイプなので、会社の性質として、もう1社は勢い重視というか、商社のなかでもさらに勢い重視の会社だったので。
Q仕事を選ぶ過程で、学生時代に勉強してきたことと迷う人が多いと思うけど、なぜ不動産や商社を選んだの?
勉強してきたことと会社を選ぶことって、大卒だったらみんなそうだと思うけど、そこまでリンクはしない。僕もそういう観点では全くみていなくて、結局、自分がどういうことをやりたいのか、というところで会社を選んだのが正直なところですね
Q会社でどういうことをやりたいの?
仕事って、社会に対するいろいろな関わり方があるにしろ、実務としてやっていることに、そんなに大きな差はないのかな。企業が出す最終消費財のアウトプットに、納得感があるのかどうかで判断しました。
Qそれを説明すると、どういうことが大事なの?
多くの人に対してインパクト感のある仕事がいいなぁ、という非常に漠とした区切りがあった。そのうえで自分がどういう働き方がいいのかなって考えたときに、多くの関係者をまとめて調整して、主体的に動かすこと。その人たちをまとめて、1+1を10ではなく、12とか13にすることができるっていうのが、いまの会社のメリットだと共感できたところですね。
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自分に嘘をつかない
Bさん(24歳・女性)
NGO勤務
Qどういうことがしたかったの?
最初、就職しようか大学院に行こうかですごく迷って決められなくて、とても悩んでいました。でも、最初は就職だなと思って、CSR(企業の社会的責任)を通じて社会をもっと良くしていきたいことは心に決めてあったので、CSR部やCSRレポートを作っている会社とか、なにかしら自分が思っていることができそうな企業を探していたけど、そういう会社は中途採用ばかりで……。
Q直接CSRに関われる仕事がやりたい!みたいな?
そのときはね。いまはそれだけではないけど、そのときはそう思い込んでいて。就活にはいろんなやり方があるでしょ。いっぱい受けて、その中から条件が良いところを選ぶとか、目的を定めてやるとか。私が大切にしようと思ったのは、絶対に自分に嘘をつかない会社選びをしよう、と思ったから、その視点だけは絶対に曲げないように会社を探していたら、なくって(笑)。
Q大学4年のときにNGOでインターンをしようと思ったのは、なぜ?
会社に入ってCSRをしようと思ったからなの。CSRをやるうえで、NGOとの協働が大事だって、いろいろな本を読んで知ったのね。だから会社に入る前にNGOのことを内側から知らねばと思って。
Qやりたいことがあったから、いまのNGOに決めたの?
そう。CSRプロジェクトのインターンなんてここにしかなかったし、組織の理念と自分の理念がすごく合っていて、ここならやりたいことが出来るし、たくさん学べそう、と思ったから。
Qインターンから職員になって、入る前と後でイメージは違った?
人との繋がりがすごくある。事務所にはいろいろなNGOや企業、政府関係の人が来るし、いろいろなセクターの人との繋がりが多いからおもしろい。NGOで働く人が少ない分、専門性を磨きつつ、一人ひとりがいろいろなことをしています。
Q業務の幅が広い?
そう、それを知りました。
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就活の悪循環に陥る
Cさん(27歳・男性)
派遣→NPO→弁護士事務所勤務
Q志望した業界は?
メーカーやITの営業職を中心に受けていましたね。
Qそれで、どうでした?
連敗でまったくうまくいかなかった。
Q何社くらい受けました?
エントリーは100社以上で、筆記試験は50社以上、面接も30社以上でしたけど、最終まで残った会社は、ほとんどなかった。落ちるたびに自信がなくなって。自信がなくなった自分で受けに行くから余計に受からない、という悪循環に陥るんですよね。なんとか受けて、なんとか志望動機をひねり出すけど、ほんとうにそうは思っていないことが伝わるのか、元気がないのが伝わるのか、落ちていくわけです。
Qその後は?
4年生の夏ごろに、仕方なく派遣に登録したんです。派遣は当時(2004年)あまりメジャーではなく、わたしも派遣についてはよくわからず、でも登録をすると紹介してもらえるというのでそうしました。卒業の間際に、派遣会社に紹介されて精密機器の営業職に決まりました。「紹介予定派遣」といって、半年間働いてお互いによければ採用というしくみでした。
Qそこで働いてどうでした?
半年たってから「結果を出せ、ほんとうにやりたい仕事なのか」と言われたんです。でも、その時点ではっきりと今後もやっていけるのかどうか判断ができなかったので、正直にそう言ったら、それじゃダメだと。ぼくにとって仕事が楽しいと思えるのは、仕事がわかって自分で仕事をコントロールできるようになってからだと思っています。それには少なくとも3年くらいは経験を積まないといけない。その意味で、「紹介予定派遣」の半年で結果を出せというのは無理だったなぁと、今になって思います。
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職場のリスク〜長時間労働
病気になって働き方をかえる
Dさん(34歳・女性)
Qひどい長時間労働だったそうですね。
IT業界は3Kと呼ばれていますが、ほんとうに労働時間が長いんです。20代のころはひどい残業で、毎日終電のような生活を2年間くらい送りました。受注することが大きな目標で、みんな頑張ってしまう。まぁ、頑張らないと受注が取れない、ということもありますが。それから、そのころのわたしの食生活がひどくて、3食コンビニとか。
Qその状態がいつまで続くのですか?
20代の終わりに婦人科系の病気が見つかって、ちょうど担当していた仕事の入札が無事に取れたので、そこから自分のなかで勝手に仕事をセーブするようになって、上司にも「もう無理です」と言いました。それが29歳のときです。理解のある上司でした。
Qそれは上司との話し合いの結果ですか?
ええ。病気になったことを言ったので上司もビビって。しかも婦人科系の病気だったので、相手は男性だからよくわからないじゃないですか。わたしは別に脅したわけではないですよ(笑)。
Q同期入社の人たちは、いまどうしていますか?
入社3年目までで、けっこう辞めていますね。いまは半分くらいになっているかもしれない。ITの過重労働に耐えられずに、体の調子を壊してしまう。配属先によっても状況が全然違うので。
Q20代のころの働き方をどう思いますか?
がむしゃらに働くことも大切かなと思います。いま「それをやれ」と言われたらゼッタイにできないけど。当時のように「やった」という経験がないと、社内での説得力がないというか。ハッタリの効く人はいいけど、わたしはそういう性格ではないので。あのときの経験があるから、いま自信をもって社内で異動ができる。
Qでも、今後も20代のような働き方が続いたら?
男性を中心に、いまも長時間労働をしている人たちはいっぱいいます。男性の多くは、そういう働き方が当たり前と思っているような気がします。
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職場のリスク〜長時間労働
品質と客への影響が心配
Eさん(35歳・男性)
Q勤務実態についておしえてください。
一番ひどかったときは、5月に1回休んでから8月まで、全く休めないことがありました。
Qなぜそれほど忙しかったのですか?
当時マネージメントへの不満があったのですが、マネージャーから「なんとかやってくれ」と言われて、メンバーからは「そう言われては仕方ない」とか「ここで手を止めたらお客様に迷惑がかかるから、やるしかない」という意見が大勢を占めました。でも、当時ぼくは、これではより納期が遅れて品質が悪くなり、お客様により迷惑をかけてしまう、と思っていました。だから、あらかじめ納期を延ばしたり、あるいは機能をしぼって納期に間に合わせる、という方向で上司に言ったほうが良いのでは、と話し合っていましたね。
Qその状態はどのように改善されたのですか?
お恥ずかしい話なのですが、労働基準監督署からの立ち入りが入りました。ウチの会社のメンバー、またはだれかが報告したんだと思います。それで、「このままではまずい」と会社のほうが真剣に取り組んで改善していったように思います。
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職場のリスク~出産・育児
絶対に辞めない!
Fさん(42歳・女性)
Q妊娠がわかったとき、会社の反応はどうでしたか?
一人目の子どものときは「辞めるんでしょ」と言われて、なんで辞めなくちゃいけないのか、わからなかった。一瞬落ち込んで、帰宅してから自分は何か悪いことをしたのかな?と。でも、次の日には絶体に辞めない、と決めて、そのことを上司に伝えたら困っていた。
Q大変でしたね。
社内で出産した先輩があまりいなかったから。いたら、上司もそんなことは言わなかったと思う。
Q「辞めない!」と言った後は?
出産して復帰するときに、元の職場には戻れませんでした。わたしも通勤が遠かったので、会社と話し合って、仕事の内容があまり変わらないで通える範囲の支店に移りました。
Q復帰してからは、どうでしたか?
出産してから復帰するまでがすごく不安でしたね。しかも転勤が伴っていたので。このときの経験から、いまは同じ職場に復帰できるようにしています。わたしは復帰してから、かなり無理をしたかな。「ほら、無理じゃない」と言われたくなくて。
Q現在の状況は?
組合で短時間勤務制度をつくって、育児に関する制度を充実させています。これからも会社に働きかけて、女性が働きやすい環境をつくりたいと思っています。2010年6月に育児・介護休業法の改正がありましたが、制度があっても実行性がないと意味がないので、そこには労働組合のとりくみが必要だと思います。
Q職場に労働組合は必要ですか?
たとえば、育児のことでは、組合がなければ今のような制度はできてないし、女性が働き続けることはできなかったかもしれません。ただ、そのことが社員にうまく伝わっていません。恵まれているんですね。当然のものと思っている。だから、若い社員にはもっと組合と接点をもって参画してほしい。
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職場のリスク〜業績悪化による人員整理
安易に退職を選ばない
Gさん(37歳・男性)
Q人員整理の実態についておしえてください。
まず有期雇用の人たちへの人員整理がありました。ウチの組合員に1年契約の有期雇用の人がいたんですが、契約満了による雇い止めです。組合は、辞めたくない人には、その方向で、辞められない人には、子会社への転籍をめぐって会社と交渉しました。また、辞める人には、退職の条件を上げる、という交渉です。
Qその後は?
さらに大変なことになって、正社員への希望退職が2年連続でありました。最終的には、3,000人の社員が2,000人になってしまいました。1年に500人ずつです。
Q1,000人も?
それでも最初の年は希望退職者が埋まったのですが、2年目は非常に厳しかった。辞めたくないのに、辞めざるを得ない方もいました。
Q3年間で様変わりですね。
ええ、激動でした。こういうことを繰り返すと、残った社員へのダメージがとても大きい。
Q経営の責任は?
社長とリストラ部門のトップは代わりました。部長クラスも、全員ではありませんが、肩を叩かれました。希望退職の最初の年は、その対象が一般社員と有期雇用の社員だけだったんです。管理職のほとんどが残りました。そこで、組合はその翌年、管理職から退職してほしい、と主張しました。こんなことを言えるのは組合しかありませんから。こういうときに真っ先に痛みがくるのは下のほうから、と露骨に出ました。
Q人員整理になったときのアドバイスって、何かありますか?
みなさんに同じことを言っているのですが、まず、自分の意思が一番大切です。会社に残るだけが人生ではないし、ウチの会社で働くことだけが人生ではない、と思っています。でも、働くことは人生の一部で、自分のやりたいことや人生設計を会社に託している部分がある。だから、簡単に辞めることができない人もいます。会社が厳しい状況であれば、会社はあの手この手で「辞める」という言葉を言わせよう、としてくると思います。まずは、その状況について社員同士で共有を図って、各自が真剣に考えて、安易に退職を選ばないようにしてほしい。
Q組合の委員長を体験してみてどうでしたか?
正直言って、この2年間は家に帰って泣きたいとか、辞めたいってこともありました。でも、組合がなかったらもっともっと大変なことになっていた可能性があります。ぼくの個人の経験としても、厳しい時期はありましたが、良い経験をさせてもらいました。
Q労働組合はやはり必要ですか?
組織のなかに入ると、言えないですよ。ぼくでさえ、組合の委員長という立場がなければ言えないですから。問題提起をひとりでしてもね。それが、何十人、何百人の意見であれば、会社も組織なので耳を傾けざるを得ない、というのが実感です。
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職場のリスク〜不安定な働き方
労働者として認められず
松元千枝さん
ジャーナリスト・元英字新聞記者
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学生へのメッセージ
・新卒の就活は人生にいちどしかないので、勢いで会社を選んでほしくない。世間的に良い企業でも、マッチングしないで辞めている人がいるので、納得したうえで選んでほしい。(Aさん・24歳・男性)
・ちょっとおおげさかもしれないけど、就活する前もその最中も、何のために生きていて、何のために仕事をするのか、ということをちゃんと考えてほしい。本屋に行くとハウツー本がたくさんあって、就活の時期はそれに追い詰められ易いけど、人の価値観に振り回されないように。(Bさん・24歳・女性)
・就活のときに学校や友人、リクルート会社から回ってくる情報には、上昇志向の強いものが多い。私自身、そういう情報を真に受けていました。たとえば、ある社長が書いた本を読むと、自分自身が優秀な人材にあてはまらずにダメだと思ってしまったり。人生についてアドバイスをする本は、その人だからうまくできたことで、万人に共通するものではないことを知ってほしい。(Cさん・27歳・男性)
・いまは3年生から就活をするけど、それはほんとうにもったいない。会社に雇われるという選択肢しかみていないとそうなるのかもしれないけど。学生時代はいろいろなことができるし、自分を育てることに一生懸命になって、逆に会社を利用するくらいの気概をもって就職してほしい。もちろん会社のためにも働くけど、それは自分にとってプラスになることだからやる、みたいな。(Dさん・34歳・女性)
・OB・OG訪問のときに、若手の社員が自分の業績を並べるような企業は危険かな。会社は、自分のスキルや能力だけでなく、人間関係で仕事をする場だから。それから、労働組合ははたらく人のためにあるものだから、自分の意見を組合に言ってほしい。会社とちがって縦の組織ではないので、積極的にコミュニケーションをとってほしい。(Gさん・37歳・男性)
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撮影・編集:青野恵美子